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地域生態系の構造と動態およびその評価に関する研究

自然資源を持続的に利用し、健康的で安全な社会生活を実現してゆくためには、地域における人と自然との関わりやそれらの持続可能性を理解し、多様な生物と共存可能な「土地固有の生態系」を維持することが不可欠である。本研究では、都市・里地里山地域など、環境の持続可能性が脅かされている地域に焦点を当て、人間-生物-環境の相互関係やそれらの構造、動態を明らかにするための生態学的基礎・応用研究に取り組む。

地域生態系の構造と動態およびその評価に関する研究

矢ヶ崎 朋樹 (主任研究員)

国内の里地里山における植生調査(福井県鯖江市にて)
海外における民族生物学的調査 (ラオス国ルアンプラバン県にて)
海外における自然資源の聞き取り調査 (ラオス国ルアンプラバン県にて)
JICA研修における研究成果の公表、技術指導 (JICA横浜にて)
環境教育を通じた研究成果の普及・啓発 (横浜サイエンスフロンティア高校にて)

はじめに

本研究は、都市地域、里地里山地域、荒廃地など、環境の持続可能性が脅かされている地域に焦点を当て、「人間-生物-環境の複雑な相互関係やそれらの構造、動態を明らかにするための生態学的基礎研究」ならびに「生物多様性や生態系サービスを評価し、持続可能な保全・利用のしくみを明らかにするための応用研究」に取り組む。とくに、近年は、荒廃地における植生回復/森林劣化抑止プログラムの開発をねらいとし、アプローチのそれぞれ異なる以下の3つの小課題を中心に活動を展開している。

(1)生物多様性をめぐる村落住民の知恵・技術の実態把握
(2)荒廃地における植生管理技術オプションの開発
(3)研究成果活用プログラムの開発と実践

対象と方法

(1)植物社会学的植生調査
対象地域において植物社会学的手法(Brawn-Blanquet 1964)に基づく植生調査を実施する。地域に生育する植物群落のインベントリーを作成し、記述的自然科学の視座から群落環、生態遷移、潜在自然植生の概要を明らかにする。また、現地調査結果および高解像度衛星画像等を駆使し、対象地域の現存植生図、潜在自然植生図を作成する。

(2)民族生物学的調査
対象地域においてルートセンサス及びコドラート法に基づき、地域住民の生活と密接なつながりのある植物資源を記載する。ルートセンサスでは、複数の土地利用タイプを含む景観域を踏査し、個々の植物種に係る「地方名」、「利用方法」、「利用実態」、「生育立地」を記載する。コドラート法に基づく記載では、典型的な植生タイプや植生/土地劣化の進んだ箇所に焦点を当て、植物社会学的植生調査を行うと同時に、コドラート(調査区)内の全出現種の「地方名」、「利用方法」、「利用実態」を記載する。これらの記載は適宜、地域関係者(土地所有者・管理者など)とともに行う。

(3)研究成果情報の発信、地域関係者との合意形成および環境教育の実践
方法(1)(2)の成果を応用し、土地荒廃が懸念されている地域を対象に植生管理技術オプションを立案し、現地関係者への情報提供を実施する。また、地域関係者とのワークショップや合意形成の手続きを通して、生態系保全のための各種活動を支援する。さらには、研究成果を生かした環境教育プログラムの開発・実践を通して、地域の人材育成を支援する。

最近の研究実績

本研究は、行政・民間企業・NPOをはじめ、多様な関係者との協働により進められている。これまでに複数地域におけるケーススタディが蓄積され、地域関係者協働による生態系保全のための各種活動が本研究の提言に基づき具体的に実施されている。これまでの主な研究成果および活動実績は以下のとおりである。

(1)福井県の里山を対象に生態系サービスの評価および荒廃地植生回復に関する調査研究に取り組み、地域関係者協働の下、植生回復のための活動を推進した(ニッセイ財団環境研究助成による)。

(2)IGES森林保全プロジェクトとの共同の下、ラオスにおいて生物多様性と生態系サービスの評価に関する調査研究(平成21年度環境経済の政策研究)を実施し、生態系サービスの持続的利用に向けた植生管理技術オプションの開発に取り組んだ。とくに、土壌侵食問題が懸念されたチーク植林を対象に、今後誘導すべき森林管理のあり方を具体化し、現地スタッフ(県/郡農林事務所職員など)と共にその適用に向けた課題を明らかにした。

(3)坂東五郎鎮守の森を作る会との連携の下、屋久島における生態系サービスの評価や森林再生に係る調査研究に取り組むと同時に、森林教育に係る教材を作成し、荒廃地植生回復のための活動を支援した。

(4)足尾銅山跡地における植生回復の効果測定をねらいとし、NPO法人森びとプロジェクト委員会との連携の下、植生モニタリング調査を実施した。

(5)愛知県豊田市において生態系の構造及び潜在自然植生を把握するための調査研究に取り組み、報告書(提案書)をまとめた。これにより、市街化地域での森林再生に基づく緑のネットワークの形成が図られた(民間委託事業による)。

(6)名勝三溪園(横浜市中区)において生態系の構造を把握するための調査研究に取り組み、報告書(提案書)をまとめた。これにより、都市地域における持続可能な緑地管理のあり方が検討された(民間委託事業による)。

(7)神奈川県内の関係機関と連携し、相模湾沿岸域において絶滅危惧種アカウミガメの産卵生息地保全に係る調査研究を実施した。これを通して、人為的な介在を極力排除した産卵巣の現地保全に寄与した。

(8)JICA主催地域別研修「アジア・アフリカ荒廃地植生回復」においてコースリーダーを務め、研究成果の公表及び生態系評価に係る技術指導を行った。

(9)JISEおよび地域関係者が主催する自然観察会、学習会、講演会、ワークショップにおける講師を務め、研究成果の公表・普及啓発に取り組んだ(横浜市立横浜サイエンスフロンティア高等学校サタデーサイエンス、鯖江市かんきょう市民大学、JISE市民環境フォーラムなど)。

成果公表

論  文

(1)矢ヶ崎朋樹・武井幸久・向川泰弘・平泉直美. 2005. 福井県鯖江市河和田地区における地域植生誌研究に基づく景観評価.生態環境研究,12 (1): 65-106.

(2)矢ヶ崎朋樹・鈴木邦雄. 2006. 地域環境計画論の新展開への生態学的アプローチ-エコロジカル・ツールの実態とその機能性・有効性に関する一考察.技術マネジメント研究,5: 11-24.

(3)矢ヶ崎朋樹・武井幸久・平泉直美・鈴木邦雄.2006.植物社会学的,民族生物学的アプローチに基づく地域景観の資源性評価-日本の里地・里山地域(福井県鯖江市河和田地区)を例として.生態環境研究,13 (1): 59-99.

(4)矢ヶ崎朋樹・倉持卓司.2006.野外環境教育のための“生き物地図”の有効性に関する一考察-天神島におけるJISEエコロジー教室の実践を通して-.生態環境研究,13 (1): 101-109.

(5)矢ヶ崎朋樹・倉持卓司・小谷野有加・倉持敦子・川島逸郎.2007.神奈川県逗子海岸におけるアカウミガメとその生息地(産卵地)に関する一考察(予察).生態環境研究,14 (1): 35-41.

(6)矢ヶ崎朋樹・倉持卓司・小谷野有加・倉持敦子・北嶋 円.2008.相模湾沿岸砂浜域におけるアカウミガメ産卵生息地の立地特性.生態環境研究,15(1): 31-42.

(7)矢ヶ崎朋樹.2009.メッシュ図を用いた里地里山景観の資源性評価手法の開発.環境情報科学論文集,23: 279-284.

(8)矢ヶ崎朋樹.2009.アジア・アフリカ荒廃地植生回復に向けた課題と展望-JICA研修におけるプログラムの実施成果を踏まえて-.生態環境研究,16(1): 77-92.

 

その他、普及的著書など

(1)矢ヶ崎朋樹・武井幸久・向川泰弘. 2006. 見つめてみよう身近な環境-むかし、いま、未来の河和田.20pp.国際生態学センター.

(2)矢ヶ崎朋樹.2010.里山再生・活用で農山漁村が躍動I-いま、農山村地域に求められること.週刊農林, 2082: 6-7.

(3)矢ヶ崎朋樹.2010.里山再生・活用で農山漁村が躍動III-里山の自然資源を評価する科学的思考力.週刊農林, 2084: 7-9.

(4)矢ヶ崎朋樹.2010.里山再生・活用で農山漁村が躍動IV-地域の自然資源を里山の環境保全に生かす.週刊農林, 2085: 6-8.

(5)矢ヶ崎朋樹.2010.探してみよう屋久島の樹木-人里編.坂東五郎鎮守の森を作る会.

(6)矢ヶ崎朋樹ほか.2010.みんなで育てよう、ふるさとの森の樹木-わたしたちのくらしと環境を支える森の主役たち(福井県丹南地域版).地球環境戦略研究機関国際生態学センター.